「自律神経の乱れが老化を招くって、本当ですか。」
「自律神経の働きは、加齢とともに乱れやすくなり、
それが全身の健康や老化にも大きな影響を与えていることが分かってきました。
自律神経とは、私たちの生命維持に必要なすべての機能を司る神経のことです。」
自律神経は、私たちの生命活動を24時間休むことなく支えてくれる大切なシステムです。心臓を動かす、血液を循環させる、食物を消化するといった体内の機能は、自分の意思でコントロールすることができません。こうした営みが自然に行われているのは、すべて自律神経の働きによるものです。
自律神経は、交感神経と副交感神経という、2つの相反する働きをする神経によってコントロールされています(右図)。
● 交感神経…車の機能に例えるなら、アクセル役。日中に活動する時など、心身が緊張・興奮する際に優位に働きます。
● 副交感神経…車でいえばブレーキ役で、くつろいだり眠ったりする時など、心身がリラックスする際に優位に働きます。
この2つの神経の働きは、片方が高い時はもう片方が低くなるシーソーのような関係とよくいわれていますが、実際はそうではありません。
理想的な関係は、両方が同じような高いレベルで働いていて、活動状態の時は交感神経が「やや優位」に、リラックス状態では副交感神経が「やや優位」になる形。それが、心身ともに充実した、最も健康な状態です。
ところが、もしどちらか一方に大きく偏ってしまった状態が続くと、心身の状態も不安定になります。交感神経ばかりが高ければ、常に緊張を強いられて疲弊してしまいます。かといって副交感神経ばかり高くても、心身の活動力が低下してしまいます(下図)。
毎日の心と体の健康状態は、自律神経のバランスによって決まるといっても過言ではありません。
中高年になると副交感神経の働きがガクンと低下する
自律神経のバランスを乱す要因として、ストレスや乱れた生活リズム、不規則な食生活、運動不足、喫煙、睡眠不足が挙げられますが、忘れてはならないのが「加齢」です。実は、交感神経の働きは歳を重ねてもあまり変わらないのですが、副交感神経の働きは年齢とともに低下していくため、交感神経だけが強く働くアンバランスな状態になりやすいのです。
順天堂大学の研究チームが行った「男女年代別の自律神経測定データ」調査の結果でも、男女とも30代、40代と年代が上がるにつれてどんどん低下しています(下左グラフ)。
誰もが20代のころと比べれば、体力の衰えや心身の不調を感じ始めるこの年代。その自覚の陰で、副交感神経の働きが低下してきているわけです。
自律神経のバランスの乱れは病気や老化を進めるもと
では、なぜ自律神経のバランスが乱れると、不健康になるのでしょうか。その理由としてまず考えられるのは、体内のライフラインである血流の低下です。
血流のコントロールは、自律神経の重要な役割の一つです。加齢とともに、血管を拡張に導く副交感神経の働きが低下すると、血管の収縮が過剰になりやすく、血流が低下してしまうため、すみずみの細胞まで栄養や酸素が行き渡りにくくなります(下右図)。また、自律神経のアンバランスは腸内環境の悪化にもつながり、腸に増えた有害物質を含んで汚れた血液が、全身に運ばれます。
この状態が続けば、体の機能は低下し、様々な不調や病気を招きやすくなり、老化も進みやすくなってしまうのです。
加齢は誰しも防ぐことはできません。しかし、日ごろから副交感神経の働きを高め、交感神経に傾きがちな自律神経のバランスを整えることは可能です。
そのためには、まず自律神経の乱れに早めに気づくことが大切。もし、好きで聴いている音楽が耳障りに感じたら、副交感神経の働きが低下しているサインです。さらに、天気が良いのに気分が晴れないとか、何となく不安感があり、それがぬぐいきれなくなったら、自律神経がかなり乱れているかもしれません。
こんな時、ぜひ意識していただきたいのが「ゆっくり」というキーワードです。ゆっくり話す、ゆっくり歩く、ゆっくり呼吸する…。中でもゆっくりとした深い呼吸は、副交感神経を刺激する簡単で効果的な手段です。また、右に紹介した手首の運動も、自律神経の安定に役立ちます。
朝は、自律神経が睡眠時の休息モードから、起床して日中の活動モードにはね上がりやすい時。ここで、副交感神経の働きを下げ過ぎないように、ゆっくりと朝食をとりましょう。朝から強い緊張感で心身に負荷をかけず、余裕をもって1日をスタートすることが大事です。
日ごろから自律神経を安定させる習慣は、健康と若々しさの大きな助けになるはずです。
1987年順天堂大学医学部卒業。同大学大学院医学研究科博士課程修了後、ロンドン大学付属英国王立小児病院外科、トリニティ大学付属小児研究センターなどでの勤務、順天堂大学医学部小児外科学講師・助教授を経て現職。日本体育協会公認スポーツドクター。自律神経研究の第一人者としても知られ、トップアスリートのコンディショニング、パフォーマンス向上指導にも関わる。『なぜ、「これ」は健康にいいのか?』(サンマーク出版)など著書多数。