「健康診断の数値が、血管の老化の大切な指標って本当ですか?」
「ヒトは血管から老いるといわれるように、多くの生活習慣病も、命に関わる心臓病や脳卒中も、すべて血管の老化がその始まりです。しかし、血管の中は自分で見ることはできません。そこでしっかりと注目すべきなのが健康診断の数値です。その数値こそ、あなたの血管の老化リスクを知る上で大切な指標。より充実した明日を迎えるため、血管を守る生活習慣の実践を!」
血圧と血液の質が動脈硬化に深く関与
成人の血管をすべてつなぎ合わせると、その長さは約9万km。地球2周半もしてしまいます。血液はその中を猛スピードで循環しながら、全身に酸素や栄養を運び、老廃物を回収するなど、生命維持に関わる大切な仕事をしています。
そのため、心臓から血液を送る動脈は肉厚で、弾力性と柔軟性に富んでいます。しかし、心臓が押し出す血液の圧力が強過ぎる状態が続いたり、血液中の脂質や糖が必要以上に多くなったりすると、血管の内壁が傷ついたり、余分なコレステロールなどがたまりやすくなります。
それが血管の老化=動脈硬化の始まりです。
血管の状態を健診値で見てみましょう
動脈硬化の進行は、頸動脈エコー検査や脈波伝播速度検査などで調べることができますが、一番手軽に自己チェックできるのが健診値です。
注目していただきたいのが、血管の状態に関わりが深い「血圧」「血中脂質」「血糖」に関する数値。下の表でそれぞれの検査の目的と内容を確認し、ご自身の健診値を上の基準値と比べてみてください。
健診値が基準値から離れるほど、また基準値を外れている項目が多いほど、血管の老化が進んでいるサインです。たとえ基準値より少し外れている程度であっても、これくらいなら歳のせいと思うのは禁物。項目が重なると、動脈硬化は加速しやすいので油断はできません。
長年の生活習慣を映し出す鏡
動脈硬化は、早い人は40歳前後から認められます。しかも、自覚症状がほとんどないまま進行するので、放置しておくと、やがて脳梗塞や心筋梗塞などを招きかねません。
進行には個人差があり、その速度を決めるのは、加齢だけでなく、長年の生活習慣です。下のような偏った生活習慣に複数思い当たる人は要注意。どのくらい血管の老化が進行しつつあるか、それは過去数年間の健診値の経年変化を見ると分かるはずです。異常値があり、その数値が前年よりも基準値から遠ざかっているほど、血管の老化が加速している状態です。
悪玉コレステロールよりも中性脂肪の数値が問題
血中脂質では、悪玉と呼ばれるLDLコレステロールに目がいきがちですが、むしろ重要なのは中性脂肪です。中性脂肪値が高いと、善玉といわれるHDLコレステロールが減り、余ったLDLコレステロールが回収されずに体内を循環しているうちに小型化して血管壁に入り込み、動脈硬化が加速度的に進む危険があるためです。
実際に中性脂肪値が高い人は、LDLコレステロール値が低くても、心筋梗塞を起こしやすいのです。
肝機能を表すGPTも血管の状態を知る指標に
今回注目すべき3つの健診項目のほかに目を向けたいのが、肝機能検査のGPT(ALT)です。肝臓には血液中の余分な脂質を蓄積する働きがあり、脂肪をため込むとGPTの数値が高くなります。
GPTの基準値は30IU/ℓですが、20IU/ℓ以上になったら血液中の脂質が過剰になってきたサイン。つまり、血管の老化が始まっていると考えることができます。
活性酸素が体内に増え過ぎると、血管の細胞を傷つけ、小型化したLDLコレステロールを酸化して超悪玉化させるなど、一段と動脈硬化を進める危険があります。ストレスをため込まない、睡眠時間を十分にとる、抗酸化成分を補うなど、日ごろから活性酸素を増やさない心掛けが大切です。
意識して摂りたい青魚のDHAとEPA
老化した血管はもとの状態に戻すことは難しいのですが、その背景にある生活習慣を改善することで、老化にブレーキをかけることは可能です。まずは、偏った食生活と運動不足の改善を。いずれも血圧を上昇させ、血中の脂質や糖を増やす大きな要因。この2つをきちんと見直すことで、異常値の項目がまとめて改善することもよくあります。
食生活改善の合言葉にしたいのが右の「オサカナスキヤネ」です。青魚に多く含まれているDHAとEPAは、余分なコレステロールを減らし、血液の流れの良い血管を保つ働きがあります。また、野菜や海藻、キノコ類はカリウムも豊富。血圧上昇を招く塩分の排泄にも役立ちます。
健診を活用し明日からの健康づくりを
検診は、現在の体の状態だけでなく、日々の生活改善がきちんとできているかどうかを点検するための機会。健診値が基準値を外れる方向に変化してきたら、生活習慣を見直そうという警告です。
血管の老化にブレーキをかける工夫を取り入れて、5年先、10年先もすこやかに暮らしていきましょう。
1978年北里大学医学部卒業。東京女子医科大学消化器病センター内科に入局。東京女子医科大学教授、戸塚ロイヤルクリニック所長を経て現職。日本肝臓学会肝臓専門医。C型慢性肝炎に対するインターフェロン療法をはじめ、生活習慣病の治療で活躍中。『肝機能をしっかり高めるコツがわかる本』(学研パブリッシング)など著書・監修多数。