
「健康と若々しさの決め手は、実年齢より血管年齢ってホントですか?」

「全身の衰えと血管の老化には深い関係があります。血管が硬くなれば、動脈硬化も進んで、様々な病気や老化のリスクが高まります。血管は加齢とともに弾力を失い、硬くなっていきますが、元気で若々しい毎日を過ごしていくためには、血管のしなやかさをいかに保つか、メンテナンスがとても重要です。そのための秘訣を、お答えいたします。」

心臓から送り出された血液を全身にめぐらせている血管。すべての血管をつなぎ合わせると約10万km、地球2周半もの距離になります。文字通り体内のライフラインですが、そこで肝心なのが血管の“弾力”です。血管がしなやかな状態であれば、栄養や酸素の運搬も老廃物の排出もスムーズです。
血管は、加齢とともに硬くなる傾向がありますが、そのスピードには個人差が大きく、同じ年齢でも“血管年齢”は違ってきます。20代なのに血管が硬くなっている人や、60代でもさほど硬くない人もいます。
血管は下図のように3層構造になっており、血管年齢の若い人は、血管の弾力に関わる内皮細胞が元気です。血管年齢は、下記のチェックテストで推定できますので、まずは自分の血管年齢をチェックしてみましょう。実年齢よりも高い場合は、生活習慣を振り返るきっかけにしてほしいと思います。



血管が硬くなるのには、2つの理由があります。ひとつは、血管自体はそれほど硬くなくても、血圧の上昇で血管に圧力がかかったり、ストレスや喫煙で血管がキュッと縮んだりして血管が硬くなっている状態。この場合は一時的な硬さなので、その原因を取り除けばもとの状態に戻ります。
もうひとつは、加齢や生活習慣などによって動脈硬化が進み、血管そのものが老化して硬くなっている状態です。このように、老化して硬くなった血管は、もう戻せないと考えられていましたが、近年の研究で、ある程度のしなやかさを取り戻せることが分かってきました。

そのカギを握るのが、血管の一番内側にある内皮細胞の働きです。これを「内皮機能」といいます。もちろん年齢とともに血管の内皮機能も低下しますが、食生活をはじめとする生活習慣の工夫で、回復することが分かってきたのです。
内皮機能は、女性ホルモンによって働きが高まることが分かっており、一般的に女性は男性よりも血管の状態は良いといわれます。しかし閉経以降、女性ホルモンが減少すると、一気に内皮機能が衰えて、血管が硬くなりやすいので、50代以降は注意が必要です。
血管は目には見えませんが、血管年齢が若返ると、身も心も若々しくなります。
血流が良くなり、肩こりや腰痛も緩和します。また、全身のすみずみにまで栄養と酸素がいきわたるので、全身に活力がみなぎってくるでしょう。さらに、疲労物質や老廃物がきちんと排出されるので、疲れがたまりにくく、肌や髪もツヤツヤに。ほかにも下図のように多くの変化を実感できます。
そして、病気の予防面で何よりも大きいのは、動脈硬化を防ぐだけではなく、血管がよく拡張するので、心臓から楽に血液を送り出せるようになり、心臓の負担が軽くなることです。そうなれば、心筋梗塞や狭心症はもちろん、脳卒中の発症リスクも軽減します。心筋梗塞や脳卒中の怖さは、命をとりとめても、後遺症によって、介護が必要な寝たきり状態を招くことです。これらの病気を防ぐことは、すなわち全身の健康寿命をのばすことにつながります。
しなやかな血管を保つための生活習慣をぜひ取り入れて、10年後、20年後も病気になりにくい体ですこやかに暮らしていきましょう。

血管のメンテナンスにおいて大切なのが食生活と運動。特に食事は何を摂るかで血管の内皮細胞の若々しさが違ってきます。塩分や糖質、脂質の摂り過ぎには注意が必要ですが、血管のために積極的に摂りたいのが抗酸化成分です。血管にとって活性酸素は内皮細胞を傷つける天敵のようなもの。様々な抗酸化成分を含む野菜や果物を摂る習慣は、血管の内皮細胞の保護に役立ちます。
その代表が、オリーブオイルや赤ワインのポリフェノール、トマトのリコピンなど。こうした食材がそろう
「地中海式食事法」は、大変理にかなった一つの食べ方だと思います。




意外に血管に影響するのが、性格や行動パターン。せっかちで競争心の強いタイプの人は、血管が収縮しやすい傾向にあります。また、がまんのし過ぎもストレスにつながります。性格を変えるのは大変ですが、「かけがえのない血管のため」と考えて、どうぞゆったりした気持ちで、毎日をお過ごしください。




東京医科大学卒業。同大学院入学および同第二内科入局。同大学循環器内科助教授、同大学理事、八王子医療センター病院長などを経て現職。加速度脈波の波形解析による血管年齢を発案し、世界的に注目される。『「やわらかい血管」で病気にならない』(ソフトバンク新書)など著書多数。