
「気の持ちようで、ものごとの見え方も、意味も違ってくるってホントですか?」

「豊かな心で毎日を闊歩していきたいと思っていても、時には、沈んだ気分になることもあるものです。しかし、自分の捉え方次第で、ものごとの見え方も、意味も違ってきます。気の持ちようで、心をらくにすることができるのです。」

私たちは誰でも、日々、心に渦巻く様々な感情に包まれて生きています。うれしいことも悲しいことも、毎日のようにやってきます。同じ出来事でも、人によってうれしいことも、他の人にとっては嫌なことだったり、同じ人でも時と場合によって、うれしかったり、あまり喜ばしく感じなかったりするものです。
事実は一つでも、その時の受け止め方次第で、持つ意味も影響も違ってきます。これを心理学の世界では、「感情はオプションである」という言い方をします。オプショナルツアーなどとよくいいますが、「オプション」とは「選択肢」という意味を持ち、利用者側で選択できる事柄を指しています。一つの事実に対してどの感情を選択するのか、それは実は自分で選べるということなのです。
上のたとえもそうですが、「半分の水」という一つの事実についてAさんのように肯定的な捉え方ができる人は、この一瞬を大切にし、感謝の気持ちを忘れないので、豊かな心で生きていくことができるでしょう。
一方、Bさんのように否定的に捉えてしまうと、不安や焦りの気持ちで過ごすことになります。実は、Bさんのようなタイプの人に共通するのは、無意識のうちに人と比較して、自分に「ないもの」を数えてしまうという傾向です。
例えば、お隣と比べて「あの家にはあれもある、これもある。いつも人が来てにぎやか。それなのに、うちは友達も少なく、あれもない、これもない…」と思えばつらくなります。でも、自分に「今あるもの」「持っているもの」に目を向ければ、「自由で気楽。自分だけのぜいたくな時間が使えるのだから、季節のしつらえを大事にして、俳句でも作ってみようか」などと思えるのではないでしょうか。

豊かな心で暮らそうとしていても、誰にだって何かしら悩みや不安があるものです。大切なのは、その悩みや不安で心の荷物を重くしすぎないことです。
街で知り合いに挨拶をしたら、返事がなかったとしましょう。嫌われたのかと悩み、相手を嫌な人だと思えば、その人との人間関係が重く心にひっかかります。しかし、自分の声が小さくて聞こえなかったかもしれない、相手も何か考え事をしていて気づかなかったのだろうと思えば、何事もなく済んでしまいます。
たとえ、家族に何か問題があったとしても、捉え方次第で心の荷物の重さは変えられます。「うちの誰かが問題」などと人を責めたり、そうしてしまった自分を責めたりする前に、誰が何に困っているのか、問題だけを切り離して考えてみましょう。
目の前に立ちはだかっているように見える問題の山も、視点を変えて離れたところから見てみると、出口が見えてくるものです。そうすることで、心の重荷につぶされそうな状態から、対処の仕方を冷静に探る方向へと意識は向いていくでしょう。
冷静になることで、問題があっても焦らず、時間をかけて解決しようと思えてきます。そして24時間心の問題を抱え込まず、日々のことは日々のこととして大切に慈しみ、楽しむ心の幅が出てくることでしょう。

また、人はとかく「あの時、ああすれば良かった。ああするべきだった」と思い返しがちです。しかし、そう思う人ほど、当時はその場面場面で最善を尽くしているのではないでしょうか。だからこそ、さらなる最善があったのではないかと思い返しているのです。そんな自分を時には認めて、「ここまでよくやってきた」と褒めてあげませんか。
そして自分へのご褒美に、自らをリフレッシュさせ、心を解放する時間をつくってみてください。そのために役立つのが、例えば下の4つのカードです。
ここまでくる間には、間違ったことや未熟だったこともあったかもしれません。でも、その場面場面で最善を尽くしてきたからこそ、今の自分がある――。そう考えれば心がらくになり、のびやかな気持ちで暮らしていけるのではないでしょうか。




神奈川県立精神医療センターせりがや病院・心理相談科長等を経て現職。自らカウンセリングを行う傍ら、講演や執筆、企業や官庁のメンタルヘルスに関するアドバイザーとしても活躍中。『自分を好きになる言葉』(講談社)など著書・翻訳書多数。