「メタボよりも生活習慣病のリスクが高い“サルコペニア肥満”について教えてください。」
「糖尿病や高血圧など、生活習慣病の大きな原因となる肥満。実は近年、生活習慣病と要介護のリスクが一緒に高まる“サルコペニア肥満”が問題になっています。 “サルコペニア肥満”とは、加齢によって筋肉が減り、脂肪が増えることなのですが、見た目では分からないため、気づきにくいかもしれません。なぜこのようなことが起こるのか、原因と予防対策について、ご説明いたします。」
筋肉減少と脂肪の蓄積はコインの裏表の関係
筋肉が減り、脂肪が増える。一見矛盾することのように思うかもしれませんが、この二つの変化は密接に関わり合っています。
特に運動をしていなければ、筋肉は20〜30代から少しずつ落ちてきます。筋肉はエネルギーをたくさん使うところですから、筋肉が減れば、使われずに余ったエネルギーは、脂肪に変わって体に溜まりやすくなります。
それは、体形や体重が若いころとあまり変わらない人でも例外ではありません。BMI(肥満指数)が標準であっても、体の断層画像などで調べると、筋肉だった部分が脂肪に置き換わっている人が意外に多く見受けられます。これが「サルコペニア肥満」です。
一番の原因は体を動かさないこと
ただでさえ加齢とともに筋肉が減りやすいうえに、普段あまり体を動かさない生活を続けていれば、「サルコペニア」が進みやすくなります。そうなると動くのがますますおっくうになり、脂肪も溜まって「サルコペニア肥満」が進行するという悪循環に陥ってしまいます。
脂肪が増えると、脂肪細胞からは動脈硬化や様々な生活習慣病の原因となる悪玉物質が分泌されるため、知らずしらずのうちに高血圧や糖尿病などのリスクを高めている可能性があります。
実際に「サルコペニア肥満」は、メタボよりも、生活習慣病のリスクが高くなることが最近の研究調査で明らかになってきています。
肥満解消と介護予防には下半身の強化が必須
「サルコペニア肥満」を予防するには、必要な筋肉を取り戻し、余分な脂肪を落とすことです。そのために不可欠なのが、毎日の運動習慣。ただ、ウォーキングだけで筋肉をつけようとすると、毎日8000歩以上、約60分歩かなければなりません。
そこで、おすすめしたいのが、1日10分でできる、ふくらはぎと太ももの運動です(下図)。これらの筋肉は、使わないと特に衰えやすく、そのまま要介護≠ノ直結する心配があるからです。
介護が必要になるのは、多くの場合、イスやベッドから自力で立ち上がれなくなった時。立ち上がる動作で一番重要なのが、太ももの筋肉、そして立ち上がった時にバランスを維持するために働くのがふくらはぎの筋肉です。
いつまでも自立した日常生活を送るためにも、これらの筋肉を意識して鍛えておく必要があります。
筋トレ+ストレッチをセットで行うのが効果的
筋肉を鍛えるうえで大切なのは、強さと柔軟性。中高年からでも、しなやかで質の良い筋肉を育てることは十分に可能です。
効果的なのは、力を入れて筋肉を収縮させる「筋トレ」と、リラックスして伸ばす「ストレッチ」の組み合わせ。筋肉が伸びれば筋肉の中の血管も伸び、血流も良くなります。
下半身の筋肉は、エネルギーを多く消費するところなので、毎日続ければ基礎代謝量も自然にアップ。脂肪がつきにくい体質になります。
ダイエットが招く「サルコペニア肥満」も
筋肉を育て、脂肪を減らすためには、体を動かすとともに、食生活の工夫も大切です。カロリーは控えめに、栄養をバランス良く摂ることが基本ですが、筋肉をつくるために大切な良質のタンパク質を積極的に摂りましょう。
特に動物性タンパク質は、高齢になると摂取量が少なくなる傾向があるので、普段から肉や魚を意識して摂るように心掛けましょう。
最近は、誤ったダイエットでタンパク質が不足し、減った筋肉の間に脂肪がつく、若い女性の「サルコペニア肥満」も見受けられます。いくつになっても、体をよく動かし、必要な栄養をきちんと摂ることが、健康を維持するための両輪。ぜひ、今日から実践してみてください。
鹿屋体育大学スポーツ課程卒業後、川崎医療福祉大学助教授、米国コロラド大学客員研究員などを経て、2003年より国立健康・栄養研究所に勤務。厚生労働省の「アクティブガイド」の策定などに関わるほか、テレビや雑誌、講演会などでも活躍中。『症状別みんなのストレッチ』(小学館)など著書多数。