
「性ホルモンが減少すると、様々な病気が起こりやすくなるって、ホントですか? 」

「私たちの体内では約100種類のホルモンが分泌しており、各器官が正常に働くための調整や情報伝達をしていますが、加齢に伴って様々な変化が表れてきます。その代表が性ホルモン。女性も男性も、性ホルモンの減少は身体機能の低下に直結します。しかし、上手にケアすることで、低下を遅らせることは十分に可能です。そのためにできる日常生活の工夫をご説明いたします。」
性ホルモンは、女性ホルモンのエストロゲンと、男性ホルモンのテストステロンがよく知られています。ともに男女の性分化や生殖機能に関係し、子孫を残すために欠かせない重要なものですが、全身の様々な機能にも深く関わり、重要な役割を果たしています。
例えば、女性ホルモンは骨を丈夫にし、悪玉コレステロールの増加を抑えるなどの働きが、男性ホルモンはたくましい体をつくり、内臓脂肪がつくのを抑えるなどの働きが知られています。さらに近年の研究では、性ホルモンに血管や脳神経の機能を保護する働きがあることが分かってきました。
性ホルモンは、いわば“若々しさと健康の基本”。もしも心身の老化を感じるような時は、性ホルモンの分泌量が落ちていると考えてよいかもしれません。

男性ホルモンは男性だけ、女性ホルモンは女性だけが分泌すると思われがちですが、どちらの働きも双方に必要なため、男女とも両方の性ホルモンを分泌しています(下図)。
そして、もう一つ注目したいのは、男女共通の性ホルモン「DHEA*」です。女性は閉経によって女性ホルモンが著しく減少しますが、副腎皮質でつくられるDHEAが、女性のホルモン力を補う働きをしているのではないかと考えられています。
*dehydroepiandrosterone(デヒドロエピアンドロステロン)

性ホルモンは誰でも加齢とともに減少していきますが、女性と男性とでは減り方が大きく違います。
女性の場合、閉経を迎える50歳前後から女性ホルモンが急激に減り、その影響で、ほてり、発汗、倦怠[けんたい]感、冷え、不眠、うつなど様々な不調が表れやすくなります。症状の内容や程度は人それぞれで、更年期障害と呼ばれるつらい状態になる人もいます。
一方、男性は20代をピークに男性ホルモンが徐々に減っていき、同じ年代でも個人差が大きいのが特徴。分泌量の低下とともに、勃起障害(ED)のほか、女性と同じような心身の不調が表れますが、閉経のような終わりがありません。こうした男性ホルモンの減少による症状を、近年「LOH症候群(加齢男性性腺機能低下症候群)*」と呼んでいます。
性ホルモンは、多くの機能に関わっているため、分泌量がさらに減少する高齢期には、全身の様々な病気が起こりやすくなります(下図)。
女性の平均寿命は年々延びていますが、閉経の平均年齢は昔と変わりません。もともと女性は男性よりも骨や筋肉が弱いうえ、閉経以降はさらに衰えるため長寿になるほど筋肉量が減少して、歩行や立ち上がりが困難になるサルコペニアのリスクが高くなります。また認知症に女性の方が多いのも、性ホルモンが関係していると考えられます。
女性に多い骨粗しょう症やサルコペニア、認知症は直接命を脅かすものではありません。しかし男性の場合は加齢とともに動脈硬化が進みやすく、脳卒中・心筋梗塞など、生死に関わる病気にかかりやすくなることが分かっています。
高齢になると増えてくる、こうした男女の病気や症状の違いが、平均寿命や健康寿命の差として表れてくるのでしょう。
*LOH :late-onset hypogonadism

加齢によって性ホルモンが減少するのは、自然なことなので仕方がありません。しかし、日常生活の工夫によって、性ホルモンの分泌を活性化させたり、閉経による減少をカバーしたりすることはできます。
男性ホルモンや女性ホルモンの分泌には、加齢だけでなくストレスが強く影響しています。また偏った食事や運動不足、睡眠不足、冷えなども性ホルモンが減少する原因です。しかし、歳を重ねても、また認知機能が低下しても、運動を続ければ、脳や血管機能に関わるテストステロンやDHEAが増えることが近年の研究で分かっています(右グラフ)。
日ごろからストレスをためない工夫や、ホルモン力を高める食生活とともに、積極的に体を動かす習慣をつけましょう。





1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部老年病学教室助手、ハーバード大学研究員、杏林大学医学部助教授、東京大学大学院医学系研究科准教授などを経て、現職。老年病の性差、性ホルモン研究でも著名。監修書に『男性ホルモンの力を引き出す秘訣』(大泉書店)など。