
「糖尿病対策に食物繊維が有効って、ホントですか?」

「日本人の40歳以上の男性3人に1人、女性4人に1人が糖尿病かその予備群といわれています。血糖値の上昇には日ごろの食生活が大きく影響しますが、食物繊維は便秘を防ぐだけでなく、血糖値を安定させるための切り札として重要な役割が期待できます。 糖尿病対策における食物繊維の有効性と、上手な摂り方をご説明いたします。 」



糖尿病は、血液中のブドウ糖がうまく細胞に取り込まれず、血糖値が慢性的に高くなる病気。自覚症状はほとんどありませんが、放置しておくと全身の血管が糖に侵され、怖い合併症を招く心配があります(下図)。
近年は、歯周病や認知症との関連も指摘されており、糖尿病の人は血糖値が正常な人に比べてアルツハイマー病になる危険性が約2倍も高いという研究報告も出ています。
増え続けている糖尿病の多くは、偏食などの生活習慣が原因と考えられています。日ごろの対策で、まず気をつけたいのは「食べ過ぎ」。エネルギーの摂り過ぎで内臓脂肪が増えれば、脂肪細胞からブドウ糖を細胞に取り込むインスリンの働きを妨げる物質が分泌され、血糖値が上がりやすくなるのです。
糖尿病対策で食物繊維が注目されるのは、食べ過ぎを防ぎ、食後の血糖値の上昇をゆるやかにする作用が期待できるからです。1日に成人男性は19〜20g以上、成人女性は17〜18g以上の食物繊維を摂りたいところですが、現代の食生活では十分とはいえません。
その原因は、欧米型の食習慣になり、食物繊維が多い穀類や野菜、いも、海藻類などの摂取量が減ったためといわれています。実際に上グラフを見ると、食物繊維の摂取量が減っていくにつれ、糖尿病受療率が伸び始めていることが分かります。
近年は、患者の若年化が進んでおり、また健康診断で空腹時血糖値が正常でも、食後血糖値が高く下がりにくい“隠れ糖尿病”の人も少なくありません。それだけに、食物繊維を意識的に食生活に取り入れたいものです。



食物繊維の働きや生理作用が明らかになったのは、実は近年のこと。もともとは炭水化物の一種で、「ヒトの消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」と定義されており、水に溶ける水溶性と水に溶けない不溶性に分類されます。
水溶性食物繊維は胃や小腸でゲル状になり、一緒に摂った糖質を包み込んで消化吸収を遅らせます。その結果、食後の血糖値の上昇がゆるやかになります。ほかにも水溶性食物繊維は、血中コレステロール値を下げる働きが知られており、近年はインスリンを効率よく働かせる消化管ホルモンの分泌を促す作用も明らかになっています。
一方、不溶性食物繊維を含む食品にはかみごたえのあるものが多く、早食いによる食べ過ぎを防ぎ、肥満の予防に役立ちます。また、水分を吸収しふくれる性質があるため、腸で便の量を増やし、排便を促したり、腸内の有害物質を排出したりする作用があり、腸内環境の改善に役立ちます。
このように、食物繊維の働きは実に幅広く、多彩です。血糖値、血中コレステロール値の安定だけでなく、肥満を防ぐことで、メタボリックシンドロームや動脈硬化の予防にもつながります。また、腸の働きを良くすることで、免疫力の向上も期待できます。
2種類の食物繊維をバランスよく摂ることは、糖尿病をはじめとする生活習慣病の有効な予防策。健康維持のため、積極的に食卓に取り入れましょう。








東京大学医学部卒業。東京大学附属病院助手、筑波大学講師、オックスフォード大学講師、虎の門病院内分泌代謝科部長を経て現職。専門は糖尿病学、内分泌代謝学など。日本内科学会認定医・指導医、日本糖尿病学会認定医・指導医。著書・監修書に『目で見る食品糖質量ハンドブック』(学研プラス)などがある。