
「私たちの体の細胞が、ほんの少しずつ、毎日入れ替わっているって、ホントですか?」

「私たちの体は、骨も血液も内臓も、細胞が日々少しずつ入れ替わっています。 見方を変えれば、何年かの周期で、新しい自分に生まれ変わると考えることもできるでしょう。ただし、細胞が入れ替わるスピードには個人差があり、それが見た目の違いに表れます。同窓会に行くと、若々しく見える人とそうでない人がいると感じる方も多いのではないでしょうか。いつまでも体の細胞が元気で若々しく過ごせる工夫について、ご説明いたします。」

一つひとつの細胞には“有効期限”がある
私たちの体を構成する約60兆個の細胞は、成人以降も一部(神経細胞や骨格筋細胞など)を除いて、ほんの少しずつですが、毎日入れ替わっています。それが、細胞の新陳代謝といわれるしくみ。新陳代謝というと、肌のターンオーバーを思い浮かべる方も多いと思いますが、実は体のほとんどの部位で、同じような“細胞のリニューアル”が行われているのです。
なぜ、体にはそうしたしくみが備わっているのか。体を大きな機械、細胞を精密な部品と考えると分かりやすいかもしれません。どんな機械でも、性能を維持するためには部品交換が欠かせません。体の大部分の細胞には、一つひとつ“有効期限”があり、古くなった細胞を新しい細胞に交換することが必要なのです。
こうした新陳代謝が体内のあちこちで少しずつ進行していることで、私たちは健康と生命を維持することができるわけです。
細胞が入れ替わる周期は部位によって様々
ただし、一口に新陳代謝といっても、細胞が入れ替わるサイクルは、部位によって大きな差があります。
最も短いのが腸管の上皮細胞。3〜4日でつくられて吸収などの機能を担いますが、1〜2日で役目を終え、便として排出されます。一方、長いのは骨。古くなった部分が壊されて、新生されるまでに約5カ月を要します。その周期を繰り返し、成長期では約2年で全身の骨が入れ替わるといわれています。
細胞レベルでは、健康でいる限り、体は毎日、見えないところで変化し続けているのです。

見た目の年齢は遺伝よりも生活習慣で決まる
一般的に新陳代謝のスピードは中高年になると低下していきます。そうなると、古い細胞の老廃物などが体内に残りやすくなり、その影響が体の変化として表れてきます。しかし、同じ年齢でも見た目の年齢が人それぞれ違うように、体の変化にも大きな個人差があります。
では、その差を決めるのは何でしょうか。遺伝と環境がかかわり合っていると考えられており、その比率は遺伝的要因が約2割、環境的要因が約8割といわれています。
実際に、一卵性の双子でも喫煙者と非喫煙者とでは、老化の速度や見た目の年齢が違ってくることを検証した米国の研究があります。また、同じ年齢でも生物学的には親子ほどの差があるという、興味深い研究報告もあります(右図)。
その差を生む環境因子を決めているのが、毎日の生活習慣。偏食や喫煙、睡眠不足、運動不足、ストレスの多い生活は、新陳代謝力を低下させることがここからも分かります。
日ごろから、下記のような健康的な生活習慣を続けているかどうかで、体内の部品交換の進み具合が変わります。その積み重ねが、数年後、数十年後の見た目の年齢を決めるといえるでしょう。




歳を重ねても、細胞を若々しく
細胞が正常なサイクルで生まれ変わるためには、細胞に必要な栄養や酸素が全身に行き渡り、老廃物などがすみやかに回収されなければなりません。その働きを担っているのが、体の中をかけめぐる血液です。見た目の年齢を若々しく保つためにも、日ごろから血流を良くしておく心掛けこそ、基本の“き”かもしれません。
もう一つ重要なのが、体の抗酸化力です。新しい細胞がつくられる時、体の中で活性酸素が発生します。この活性酸素が増え過ぎると、健康な細胞まで酸化してしまう心配があります。私たちの体内に備わっている抗酸化力は加齢とともに低下するため(右グラフ)、抗酸化成分を補う習慣は、中高年になるほど重要になってきます。
今この瞬間も、体の中では細胞の入れ替えが行われています。新陳代謝力を高める習慣で、進化する新しい自分をつくっていきましょう。




1970年慶應義塾大学医学部卒業。米国ラ・ホーヤ癌研究所訪問研究員、慶應義塾大学医学部助教授、東京女子医科大学産婦人科主任教授、国際医療福祉大学教授を経て、2019年より現職。日本骨粗鬆症学会前理事長、日本抗加齢医学会理事を務め、2015年度日本骨粗鬆症学会学会賞受賞。『骨は若返る!』(さくら舎)など著書多数。