「健康診断でよく目にする中性脂肪が動脈硬化に深く関わっているって、ホントですか?」
「糖質や脂質の摂り過ぎで、肥満の原因になる中性脂肪が増えることはよく知られています。しかし、中性脂肪が血管の老化に深く関わっていることや、多くの人が気にしているコレステロール値に影響していることは、あまり知られていないのではないでしょうか。
健診などで名称はよく目にしますが、意外と知られていない中性脂肪の働きと数値の意味について、ご説明いたします。」
――そもそも中性脂肪はどんな働きをしているのでしょうか。
いちばん重要な働きは、私たちが活動する際のエネルギー源になること。体を動かすためのエネルギーは、食事で摂った主に糖質や脂質からつくられていますが、余分に摂り過ぎた糖質や脂質は肝臓で中性脂肪につくりかえられて皮下や内臓に蓄えられ、必要な時に分解されてエネルギーとして使われます。
また、中性脂肪が蓄えられる場所にも意味があります。おしりに脂肪がないと、座っていても痛いでしょう(笑)。皮下脂肪があるおかげで体温を一定に保ったり、衝撃を吸収したりすることができますし、内臓脂肪にも臓器を保護するという大切な役割があります。
このように、中性脂肪としてエネルギーを蓄え、必要に応じて引き出して使う体の仕組みは、飢餓の時代でも生き延びられるように備わった生命維持の機能だと考えられています。
しかし、飽食の時代ともいわれる現代、蓄えを引き出す必要が生じることは少なく、たまるばかりの中性脂肪が肥満やメタボリックシンドロームの温床になってしまうのです。さらに、過剰な中性脂肪は、血液中にあふれ出します。
――中性脂肪値が高いと、どんな問題があるのでしょうか。
一つは、善玉コレステロールのHDLを減らし、悪玉コレステロールのLDLを増やしてしまうこと。善玉のHDLが減ることで、増え過ぎた悪玉のLDLは体内を巡る間に小型化。血管の内壁に入り込みやすい「超悪玉LDL」になり、動脈硬化を進行させてしまいます(下左図)。
過剰な中性脂肪が直接血管にたまったり傷つけたりすることはなくても、こうしてコレステロールのバランスを崩し間接的に血管の老化を進める点が大きな問題なのです。
もう一つの問題は、たまった内臓脂肪細胞から分泌される物質が、血糖値の上昇を抑えるインスリンの働きを妨げること。そのため、糖尿病のリスクも高くなります。
――中性脂肪を増やさないためのポイントを教えてください。
中性脂肪が増え過ぎる主な原因は、食べ過ぎ・飲み過ぎ、運動不足。しかし、その生活習慣を見直せば、約1週間で確実に成果が表れます。例えば、特に中性脂肪値が心配な人は、健診の1〜2週間前からお菓子やお酒を断って受けてみると、数値の劇的な変化を実感できるでしょう。
食事が“摂る”側の改善なら、“使う”側の改善が運動。年齢を重ねると、見た目がそれほど変わらなくても、筋肉が減り中性脂肪が増えやすくなるので、意識的に体を動かして、エネルギーを消費する筋肉をつけるようにしましょう。
特に女性は更年期以降、脂質を調節している女性ホルモンが減るため、生活内容に変化がなくても中性脂肪が蓄積しやすくなります。下記の生活習慣を取り入れ、血中脂質のバランスの良い体を維持しましょう。
東京大学医学部卒業。シカゴ大学留学、東京大学第1内科医局長などを経て現職。日本内科学会所属・日本動脈硬化学会名誉会員。動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012年版作成の診療・疫学委員会委員長。『コレステロール値が高いと言われたら読む本』(監修 小学館)など著書多数。