
「汗のかき方は全身の健康にも影響するって、ホントですか?」

「じめじめと蒸し暑い梅雨は汗っかきの人にはつらい季節ですが、実は汗にも“良い汗”と“悪い汗”があるのをご存じでしょうか。良い汗は蒸発しやすく、保湿作用もあるので美肌づくりにも役立ちます。一方、悪い汗は蒸発しにくいうえ、雑菌も繁殖しやすく体臭のもとになることも…。そこで今回は、良い汗のかき方についてご説明いたします。」

汗は、蒸発する時に体の熱を外に逃がすことで体温の上昇を防ぐ、体に備わった大切な機能。あまり知られていませんが、動物の中で汗をかいて体温調節ができるのは、人間だけです。
人間の脳は高度な知性を司る大脳を発達させることで進化してきました。しかし、脳細胞は温度の変化に敏感で、とりわけ高温には弱いのです。その脳を熱から守るため、暑い時に体の熱を放散する特別な体温調節器官が必要となり、人類は脳とセットで汗腺を発達させてきました。
汗をかくことは、脳にとって大変重要なことなのです。
では、良い汗と悪い汗の違いは、どこにあるのでしょうか?
汗は、血液からつくられています。その際、血液に含まれる体に大切なミネラル分などは、ろ過して血管に戻しています。このろ過機能がきちんと働いてできるのが、良い汗(下左図)。水のようにサラサラしてにおいがなく、蒸発しやすいので、少ない量でも効率良く体の熱を放散してくれます。
ところが、うまくろ過することができないと、血液のミネラル分が汗とともに流れ出てしまいます。これが悪い汗で、ミネラル分を含んでいるため、ベトベトして蒸発しにくく、熱をうまく放散できません(下右図)。そのため大量に汗をかくことになり、かくたびに血液中のミネラル分が失われるので、疲労感が増大。夏バテや熱中症を招きやすくなります。
つまり、汗腺のろ過機能が、きちんと働いているかどうかが、良い汗になるか悪い汗になるかの分かれ道になるのです。

良い汗は、体温調節だけでなく、体内の浄化や美肌づくりにも役立ちます。
良い汗をかくと代謝が高まり血行が促進。老廃物の回収や排せつもスムーズです(下図)。また良い汗をかけば、皮脂の分泌も盛んになります。新しい皮脂と粒の小さな汗によって質の良い皮脂膜が形成されて、肌がしっとりスベスベに。皮脂膜には、肌の乾燥を防ぎ、細菌などの侵入を防ぐバリア機能もあるので、肌と全身の健康を守ってくれます。
一方、悪い汗はミネラル分が皮膚に残り、それが皮脂腺にたまって酸化した古い皮脂と結びつくと、雑菌が繁殖。においが発生しやすくなり、肌にも良くありません。
汗がベタつく時は、乾いたタオルではなくぬれタオルで拭くと、余分な皮脂や汚れが取れてスッキリします。

汗腺は生まれた時から備わった大切な機能ですが、ろ過機能がきちんと働いて、良い汗がかけるかどうかは、年齢ではなく、どんな環境で生活しているかによって大きな個人差があります。
近年は、エアコンの普及で暑い夏でも汗腺を働かせる機会が減ってきました。筋肉を使っていないと衰えるのと同様に、あまり汗をかかない生活をしていると、汗腺のろ過機能は退化して、良い汗がかけなくなってしまいます。
しかし、運動や入浴などで積極的に汗をかき、汗腺を刺激する生活を続けることで、歳を重ねてからでも汗腺のろ過機能は高めることができるのです。
ぜひ今日から、下図のような良い汗をかくための生活習慣を取り入れましょう。




1949年生まれ。一橋大学商学部、昭和大学医学部卒業。昭和大学形成外科等で形成外科学、および多摩病院精神科等で精神医学を専攻。体臭多汗研究所を設立し、ワキガ・体臭・多汗治療を行っている。著書に『新・もう汗で悩まない』(ハート出版)などがある。