“睡眠負債”って何?

サントリーは健康を科学する健やかな生活のための「教えて!先生」情報をお届けします。

近ごろよく耳にする「“睡眠負債”って何?」

Q

「心身への大きな影響をもたらす、睡眠負債って、どういうことですか?」

A

「健康に睡眠が不可欠なことは、多くの方がご存じの通り。大切な睡眠が“負債”になるとは、どういうことでしょう。 なぜ負債が生じてしまうのか、生じると体はどうなるのか…。
熟年世代が知っておきたい“睡眠負債”の影響と対策を、ご説明いたします。」

自分では気づかないあなたの睡眠負債をチェック
寝つきが悪いことが多い / 起きた時に「よく寝た」と思えない / 休日に「寝だめ」をする / 寝る時間は毎日ばらばら / 集中力が途切れがち / 昼間に居眠りしてしまうことがよくある / 思ったよりも早く目が覚めてしまう
当てはまる項目が多いほど、睡眠負債がたまり始めている可能性があります。チェックリスト監修:古賀 良彦

お金と違って“貯金”できないのが睡眠

Q1 「睡眠負債」は、睡眠不足や不眠とどう違うのでしょう。
 睡眠時間が明らかに少ない時やよく眠れなかった時は、誰でも自覚がありますよね。ところが、睡眠が少し足りない程度の時は、ほとんどの人が気づきません。
 そのため、1日ではわずかな睡眠不足でも、それが積み重なると、いつのまにか借金のようにふくらんでしまうのが睡眠負債です。しかも、睡眠はお金のように貯金できないので、睡眠負債がふくらむと返済するのが難しいのです。
 蓄積すると怖いという意味ではストレスや疲労と似ていますが、大きな違いは、睡眠負債はなかなか自覚できないこと。眠っている間は、自分の体の状態を確認することができないからです。

Q2 眠っている時、体の中はどのような状態なのでしょうか。
 睡眠の役割は脳や体を休ませるだけではありません。睡眠中も脳や体の中では、翌日の活動に向けて体内環境の整備が活発に行われているのです。
 成長ホルモンの分泌もその一つ。深い眠りの時に分泌され、体内の傷んだ組織の修復を行い、脂肪の燃焼や新陳代謝に関わるなど、健康や美容に重要な働きをしています。また、記憶の定着、脳の老廃物の除去、自律神経の働きの調整、免疫力の維持などのためにも十分な睡眠は欠かせません。
 毎日のわずかな睡眠不足も積み重なれば、ホルモン分泌などの作業が滞り、脳や体に様々な影響が出てきます。上図の項目に多く当てはまる場合は要注意です。

睡眠負債がふくらむことで、心身へも大きな影響が

Q3 睡眠負債がふくらむと、どんな影響が現れるのでしょう。
 脳や体がうまく働かないだけでなく、高血圧、糖尿病などの生活習慣病の発症リスクが高まります。また食欲を増進させるホルモンが増え、食欲を抑えるホルモンが減るため、過食による肥満を招きやすくなります。
 肥満に高血圧や糖尿病が重なれば、動脈硬化が進み、脳卒中や心疾患の危険が高まります。ほかにも、睡眠負債はうつ病や認知症のリスクにつながることが指摘されています。
 このように、様々な危険因子が積み重なり、心身にもつらいダメージを与えていきます。

Q4特に熟年世代にとって、怖いのは何ですか。
 歳を重ねると睡眠時間も短くなりますが、朝はっきりと目覚めて、日中を元気に過ごせていれば、5時間程度でも健康な睡眠といえるでしょう。
 大切なのは睡眠のとり方で、1日24時間の生活リズムの中で考える必要があります。成人の睡眠は1日1回が基本ですが、高齢になって生活リズムの軸だった仕事や家事から離れると、昼夜の生活のメリハリがなくなり、1日に何度もうたた寝をする「多相性睡眠」につながる心配があります。
 それが歳とともに習慣化すると、昼間も起きず、外出もしなくなるため、高齢期の健康維持に大切なコミュニケーションと集中力が失われていきます。気持ちも内向きになって脳も体も使わなくなり、ますますメリハリがなくなるという悪循環に(下図)。
 睡眠のリズムが乱れると生活のあらゆるリズムが乱れ、脳も体も衰えていく…。そうした熟年世代特有の睡眠負債があることも知っておきましょう。

負のスパイラルに! 昼と夜のメリハリがなくなり単調な生活リズムに / 睡眠の質が低下し、昼間からうつらうつらするように /  外出や、人と会話する機会が減り、日中に脳も体も使わなくなる

真っ暗で無音の寝室では、かえってうまく寝つけない

Q5 良い睡眠を得るための条件や工夫を教えてください。
 まず、寝つきを良くすることでしょう。アメリカの睡眠研究*では、眠り始めから90分の間に十分に深い睡眠がとれることが、良い睡眠の条件とされています。深く眠れれば、その後の睡眠のリズムが整い、翌朝気持ち良く目覚めることで、規則正しい日中の生活リズムもつくりやすくなります。
 寝つきを良くするために大切なのは、寝る前の過ごし方。食事は就寝の2〜3時間前には済ませ、リラックスできる時間を過ごしましょう。そして、眠る時の環境づくりも重要です。真っ暗で無音の状態がいいと思われがちですが、ほどよい五感への刺激がある方が、気持ちが安らいで寝つきやすくなります。
 下の寝つきを良くする4つのポイントを参考に、毎日の睡眠環境をぜひ見直してみてください。

*参考文献:Dement, W.C., History of sleep medicine. Neurol Clin, 2005. 23(4): p. 945-65, v.

セサミン含有食品の睡眠改善に期待 セサミンを含む食品で、眠りが浅い、寝つきが良くないという体調の改善に効果があることが確認されています。毎日の食事などで上手に摂ることも一つの方法でしょう。セサミン含有食品による体調・気分評価試験のグラフ * p<0.05,** p<0.01,# p<0.05,## p<0.01 ※Global Journal of Health Science.7(6),1-10,2015 を元に作成

五感をほどよく刺激!寝つきを良くする4つのポイント
(光)目を閉じていても感じる程度のほのかな明るさ / 電気スタンドの豆球などのほのかな光は目に優しく、心安らかに眠りにつくことができます。(音)耳に優しいスローなリズム / 静かな語りのラジオ番組や、歌詞のないヒーリングミュージックが心地良い眠りに誘います。
(香)脳の疲れなどを癒やすアロマ / ラベンダーなどのフローラル系のアロマがおすすめ。自分でブレンドして、お好みの香りを見つけてみましょう。(触)心身がくつろげる温度・湿度・寝具 / 温度は18〜20℃、湿度は50〜60%が良いといわれています。また、寝具の色や素材、枕などもお好みのものを。
良い眠りは良い目覚めをもたらし、すこやかな生活リズムが生まれます