これからの人生で、幸せを呼ぶ心の持ち方や人間関係の築き方って、
どのようにしたら良いのでしょうか?
幸せな気持ちになるために、必要なものは何でしょう?
それは人によって違いますが、お金などの幸福感は長く続きにくいもの。
むしろ、特別なことがなくても、「今日もいい一日だったな」と思える日々が大事――。
そう語る、心療内科医で医学博士の海原 純子先生に、
幸せを呼ぶ心の持ち方や人間関係の築き方、歳の重ね方を伺いました。
幸福の条件は人それぞれ。「○○があったら」幸せになれると考える人も多いのではないでしょうか。それはお金だったり、若さだったりするかもしれません。
しかし、私たち人間は手に入れた時は幸せでも、すぐに慣れて、それが当たり前になってしまいます。時間とともに目減りしていく幸福感ともいえるでしょう。
幸・不幸を他人と比較する人もいますが、幸せは自分の心と体によって生み出していくもの。それは、冷蔵庫の中身に例えられるかもしれません。
いつも食材で満杯だといいように思いがちですが、たくさんあっても食べ切れないし、奥の野菜に気付かずにだめにすることもあります。食材が少なくても、上手に使って美味しい料理ができた時は、ハッピーな気持ちになりますよね。
こうした“自分の心と体でつくり出す幸福感”は、目減りすることはないでしょう。
ほかと比べるのではなく、まず“自分の冷蔵庫”にあるものを総点検し、上手に生かしていきましょう。
ささやかでも、こうした充実感やワクワク感を大切にしながら、その日一日をていねいに生きていく―。それが人生の楽しさではないでしょうか。
幸せに過ごすためには人間関係も大切な要素だと思います。苦手な人とは無理につき合わないのが一番ですが、誰でも人には良く思われたいので、いやでも断れないこともあるでしょう。
でも、大事なのは自分の気持ち。心に問いかけて、いやな時には「ノー」と伝えるべきでしょう。ただ、相手の気持ちも配慮し、自分も相手も「イエス」と言える接点がないか探して提案してみるやり方もあります。
例えば、旅行の前日に用事を頼まれたとします。
「旅行だから無理! 急に言われても困ります!」
ついこんな言い方になりがちですが、悪気がなくても相手は非難されたような気分になります。
「週末は不在にしております。でも前もって言っていただければ大丈夫な時もあります」
こうした、接点の可能性を残した「ノー」であれば、あまり悪い印象は残らないものです。
自分の気持ちを無理なく相手に伝えることは、スムーズな人間関係の基本。それは、幸せに向かうための一つのカギになるでしょう。
年々、若いころのようにできないことも増えてきますが、ある年齢にならないと得られない喜びや楽しみもあるのではないでしょうか。「歳だから…」と自分の中に“境界線”を設けないで、時間に余裕がある年代だからこそ、やりたいことをやりましょう。
大事なのは、結果よりプロセス。若いころから始めた人のようには上手にできず、やっても無駄という考えもあるでしょう。それは、錆びた刀を磨くようなものかもしれませんが、一生懸命磨いていれば、結果として刀は光らなくても、本人が輝いてくるものです。
やりたくて行動するというのは、喉が渇いたら水を飲むのと同じで、心と体から自然に出てくる欲求。褒められなくても、実益にならなくても、自分はこれでいい――。そんな凜とした歳の重ね方ができたらいいですね。
自分が少しでも進歩していると思えたら、それはとても幸せなこと。何かをできるようになったとか、許せなかったことが許せるようになったとか、皆さんにも思い当たることがきっとあるでしょう。
例えば1年後に、また少し進歩した輝く自分と会うためにできることは何か、心を巡らせてみてはいかがでしょうか。
東京慈恵会医科大学卒業。ハーバード大学客員研究員を経て、日本医科大学特任教授。心療内科医として全国で講演活動を行うとともに、2013〜14年まで復興庁「心の健康サポート事業」の統括責任者として東北各地で活動。その後も福島自主避難者サポート活動を行う。被災地の調査論文で平成28年度日本ストレス学会学会賞を受賞。新聞・雑誌の連載でも活躍中。『今日一日がちいさな一生』(あさ出版)など著書多数。