心身の老化を進める心配がある、
「かくれ不眠」って知っていますか?
「かくれ不眠」とは、専門的な治療の必要はないものの、睡眠の悩みや不満を
抱えている状態です。深刻に考えず、放置している人がほとんどですが、
そのまま治療が必要な不眠症に進むことも少なくありません。
健康を脅かす入り口でもある「かくれ不眠」について正しく知り、
良い睡眠を得るための具体策について、私がご説明いたします。
「かくれ不眠」は、専門的な言い方をすれば「軽度短期不眠」。不眠症ほど重症ではないけれども、きちんとした睡眠の質が得られていない状態です。ちょっとしたきっかけで、誰でも、いつでも陥る可能性があります。
「かくれ不眠」には上記の5タイプがあり、いずれも共通するのは、そのまま放置している人が多いこと。しかし睡眠が十分にとれていないと、日常生活に様々な影響が出る恐れがあります。
よく見られるのが、集中力や作業効率の低下です。これは、睡眠不足で脳が休息できず、睡眠中に行われるはずの情報の整理がうまくいかなくなるためです。また、自律神経の働きやホルモン分泌が乱れるため、めまいや疲労感、無気力などの症状を招きやすく、放置していると、生活習慣病や肥満とともに不眠症、うつ病などにつながることが分かっています。
さらに大きな問題は、うまく眠れないストレスが、睡眠の質をさらに悪化させること。この“負のループ”にはまると、「かくれ不眠」とストレスがお互いに影響を及ぼし合い、心身の老化を進める心配があります。
私たちは、眠っている時間と起きている時間を別々に考えがちですが、睡眠と覚醒は表裏一体。お互いに深く関係し合っており、質の良い睡眠を得るためには、日中をどう過ごすかが重要になります。
特に大切なのが朝。スッキリと起きられれば、日中を元気に過ごすことができ、夜の入眠もスムーズです。そのために取り入れたいのが、朝日を浴びることと朝ごはん。日光による刺激が脳に届くと体内時計がリセットされて、昼活動して夜眠るというリズムを刻み始めます。そして、朝食をしっかり摂ることで、頭と体が元気に働きます。
良い睡眠への準備は、朝から始まっているといっても過言ではありません。その後の昼食と夕食を決まった時間に摂ることにより、体のリズムも整ってきます。
夕食や入浴の後は代謝が上がり、体は活動モードになっています。そこで、寝床に入るまでに2時間はあけて、ゆっくりと心身を入眠モードに導きましょう。
ただ、「眠らなければ」という意識が強過ぎると、かえって目がさえてしまいます。「楽しい・気持ちがいい」と思える時間を過ごしながら、下記のように、③→②→①と入眠へのカウントダウンをしていく。そんな自分なりの“儀式”をもつことも、スムーズな入眠のための有効な方法です。
なお、忙しくて夜に時間がない時でも、きちんと食事・入浴をし、少しでもリラックスタイムをつくることをおすすめします。できることから、ぜひ取り入れてみてください。
慶應義塾大学医学部卒業後、同大学医学部精神神経科学教室入室。1976年杏林大学医学部精神神経科学教室に転じ、90年同大学医学部助教授、99年主任教授を経て現在に至る。日本催眠学会名誉理事長、日本ブレインヘルス協会理事長、日本薬物脳波学会副理事長などを務める。『睡眠と脳の科学』(祥伝社)など著書多数。